薄いドレスで暖をとる・・・、女たちのエレガントなファッションが美しい。まったくのノリ遅れで、今頃って思われるだろうけど・・・。
私は、以前にNHKのBSプレミアムで放送して大人気だったらしい、英国貴族の伯爵家の出来事を描いた「ダウントン・アビー」に、今すっかりハマっている。
そして、これってひょっとして、現代の「源氏物語」みたいなものではあるまいか、なんて思っている。(読んでないけど)
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それは、要するにホームドラマなのだが、そう呼ぶにはあまりにも壮麗な、イギリスの近代末期の、貴族とはいえ社会の変化には抗えなくなりつつある、そんな時代に繰り広げられるハラハラドキドキのメロドラマである。
その、来世も私とはまったく縁はないだろう貴族たちと、縁のありそうな使用人たちの、これでもかと言わんばかりの山あり谷ありの、意外なほどに人間臭い愛憎劇に、どっぷりハマったのだ。
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その面白さを初めて知ったのは、シリーズもかなり終盤になっての頃で、それまで知らなかったことを、とてもとても悔しく思った。
だが、幸い去年から再放送が始まったので、最初から観ることができて、それも今はもう6まである全シーズン中の4、土曜日の来るのが待ち遠しくてたまらない。(「刑事フォイル」もあるし)
で、今回はその内容のことではなくて、先日の土曜日にその8回目を観始めたら間もなく、私の長年の謎がついに解けたという話である。
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それは、かつて何度か行ったパリの蚤の市でのこと。
蚤の市と言っても、パリには場所によって、高級な画廊みたいな雰囲気の処から、道すがらヤクの売人みたいな怪しいお兄さんたちが屯ろする、ガラクタ売りの雰囲気の処までいろいろである。
そうした中の、あまり高級っぽくない蚤の市の方で、かつて何度も目にしていて、それがどういう意味なのかとても不思議に思っていたことがある。
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日本には、形の良いヤカンというものがほとんど見当たらないのだが、そうした蚤の市では、使い古しだが、とてもきれいなフォルムのヤカンがいくらでも売っていて、買いたくなってしまうのだ。
だが、そうしたヤカンの蓋を取って、中を覗くと、何故か必ず牡蠣の貝殻が入っている。
それはカルシウムだろうか、水の何かの成分らしき白というより灰色っぽいものが沈殿して底にガチガチに固まったようで、牡蠣殻と一緒にへばりついているのだ。
それがなんとなく不潔っぽくて、外見は良いのだが、とうとう買う気にはなれなかった。
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でも、それが本当にそういうことなのか、そうだとしたら、どうして牡蠣殻を入れなければならないのか、なにしろ化学なんか習った記憶すら全くない私だから、さっぱり分からない。
ひょっとしたら、水質が悪いので、それを沸騰させると、牡蠣殻に関係なく不純物は自然に沈殿して固まるのかも知れない。
その場合、わざわざ牡蠣殻を入れる意味とは、たとえばそれは中世の頃、原因不明の伝染病を防ぐために行われた魔除けの名残りで、それはフランスの伝統ということだって、全くないとは言えないだろう。
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だからといって、それを店員に質問することはかろうじてできたとしても、答えを正確に理解するには程遠い私のフランス語だから、それを見かけても、面倒だからその解明をいつもあきらめていた。
今にして思うに、かつて札幌でフランス語を習っていたパリジェンヌがパリに二人も戻っていたのだから、彼女たちに日本語で訊けば良かったのに、それも思いつかなかった。
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そうこうしている内に、時は流れ、世の中はインターネットの時代になって、検索エンジンなどという便利なものができて、それでいろいろワードを変えて検索してみたが、全くヒットしないのだ。
そしてまた、そうこうしている内に、そんなこともまるで忘れてしまって、パリからもすっかり足が遠のいてしまった。
それが、「ダウントン・アビー」を観ていたら、太っちょで怖いけれど心根は優しいおばちゃん料理長のパットモアさんと、助手の娘デイジーとの会話の中に、そのことが出てきたのだ!!
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お城みたいなお邸の地下の厨房ではアフタヌーンティーの準備中、その時、パットモアさんは “ ヤカンに牡蠣の殻を入れたかい?” とデイジーに言ったのだ!!
私は、突然の予期せぬ事態に、オオッ!!と驚いて、耳を目一杯大きくした。(ちょっと変な表現だけど)
すると、デイジーが “ 入れました。これで水垢も取れたはずね。” と答えたのだ!!
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ほんの一瞬の、それだけの会話だったが、忘れていたとはいえ、そこは長年の謎、聞き逃すはずもない。
こうして予期せずに、あっけなく、もうすっかり忘れていた長年に亘るヤカンの底の牡蠣殻の謎は、中世からの魔除けではなくて、やはり水質の改良だったと裏付けられた。
ということで、ヤカンに牡蠣殻を入れることは、フランスだけではなくて、イギリスでも行われていることが判ったが、そのままでは飲用に適さない水道水の国々では常識なのかも知れない。
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思えば、ようやくここまで来るだけで、苦節ではないけど、30年以上・・・。
でも・・・、よく考えてみたら、漠然としていた仮説がただ裏付けられただけに過ぎないのだ。
どうしてデイジーが言うように、“ これで水垢も取れたはずね ” になるのか、その仕組みは依然として謎のままだ。
テレビを観終わってから、試しに「ヤカン 牡蠣の殻」とキーを打ってネット検索してみたが、やはり、出てきたのは関係ないことばかりだった。
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だからといって、たとえ誰かに説明されても、私の理系の能力じゃ理解できないかも知れない。
その疑問を抱えたまま、私は死んでいくような気がする・・・。
まぁ、それでも別に全然いいんだけど。
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